2017年の12月、米ウォルト・ディズニー・カンパニーが、米メディア大手「21世紀フォックス」の映画スタジオ(20世紀フォックス)やテレビ事業、動画配信サービス「Hulu」などの事業を買収する提案をし、合意したと発表しました。
買収するための株式取引額はなんと524億ドル、日本円にしておよそ5兆7700億円です。
映画やテーマパーク好きの筆者としては、このような話は非常に興味深く、常に動向をチェックしていました。
するとそれから半年ほど経過した2018年6月に事態は動きます。
6月13日、米コムキャスト(傘下にユニバーサル・ピクチャーズを持つ)がフォックス買収に名乗りを上げたのです。
ディズニーに対抗した買収額は約650億ドル、日本円ではおよそ7兆1000億円になります。しかも株式取引ではなく全額現金で用意するといいます。もう頭がおかしくなりそうな金額です。
これでディズニーとコムキャストが、フォックスを巡る買収合戦をスタートさせたことになります。
このまま買収額の高いコムキャストに場合されるのかと思いきや、6月20日にディズニーが買収額を713億ドル(約7兆8000億円)に引き上げてきました。
さらにディズニーはフォックスがもつ純負債約138億円(およそ1兆5000億円)も引き受ける方針で、買収のための合計総額は850億ドルを超える模様です。
ディズニー、コムキャストとも買収の目的は主に、フォックスが権利を持つ映画やテレビ番組の人気コンテンツを入手し、動画配信サービス等を発展させ、Netflixなどに対抗することにあります。
記事執筆現在ここまで進んでおり、フォックスはディズニーの買収案を評価しているといいますが、次はコムキャストがどう出てくるかに注目が集まります。
さて、当記事はここからが本題です。
記事執筆現在、フォックスがどちらに買収されるかはまだ決まっていませんが、その結果が東京ディズニーリゾート(TDR)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などのテーマパークに影響を及ぼすことはあるのでしょうか。
テーマパークの権利関係や20世紀フォックス製作の映画タイトルを参照しながら、ディズニー側とコムキャスト側それぞれに買収された場合のテーマパークへの影響を考察してみたいと思います。
フォックス買収合戦の結果がテーマパークにもたらす影響はあくまで筆者の予想・想像であり、公に発表されているようなものではありません。
また、予想の中には筆者の多少の願望が入っていることがあります(笑)
テーマパークの権利関係
世の中には、当たり前ですが権利関係というややこしいものがあります。
TDRやUSJといったテーマパークでは、キャラクターをはじめとして様々な権利関係が複雑に絡み合っています。
これについて詳しく述べると、それだけでこの記事が終わってしまいそうなので、やめておきますが、USJの権利関係についてのとても興味深い資料を見つけましたので、時間がある方はご覧になってみてください。
参考 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン ® におけるキャラクターライセンス契約の実務日本弁理士会上の資料は平成27年(2015年)の日本弁理士会近畿支部記念講演で、USJの運営会社である株式会社ユー・エス・ジェイの法務部の方が、USJにおけるキャラクターライセンス契約について講演された時の内容です。
この資料について、当記事の本題に入る前にコンパクトに概要をご紹介しようかと思いましたが、書き始めたところ長くなってしまいそうなので、また別の記事で取り上げたいと思います。
とにかく、テーマパーク運営には主にキャラクターライセンスなど、権利関係において膨大な契約がなされているということです。
さらに、同資料に
コンテンツ/キャラクターとライセンス料のバランスも重要でして,やはりゲストを惹きつける強いコンテンツ/キャラクターはライセンス料が高くなる傾向にあります。
とあるように、USJなら「ハリー・ポッター」のような人気のコンテンツはライセンス料も高くなるということです。ハリー・ポッターのライセンサー(権利者)はワーナー・ブラザーズなので、USJ側からワーナーへかなりのライセンス料やロイヤリティが支払われているものと思われます。
逆にUSJにユニバーサル系のコンテンツを取り入れたり、TDRにディズニー系のコンテンツを取り入れるのであれば、他の会社とライセンス契約を締結するよりも契約交渉が省けたりコストを大幅に削減できます。
また、USJにディズニー系のコンテンツが、TDRにユニバーサル系のコンテンツがアトラクションなどの主なコンテンツとして存在しないように、(当然ですが)ライセンス契約が成立しない関係もあり、自社のテーマパークには自社やその傘下所有のコンテンツを導入することが基本になっています。
そういった面において、ディズニーかコムキャストがフォックスを買収すれば、それぞれが所有するテーマパークに、フォックス所有のコンテンツを導入しやすくなり、それで集客を狙うということも考えられます。
では、テーマパークへの影響の考察の前に、21世紀フォックスの映画スタジオ「20世紀フォックス」製作・配給の映画タイトルを先に確認します。
20世紀フォックス製作・配給の主な作品
のちの考察に必要な、20世紀フォックス製作もしくは配給の作品のうち重要なものを挙げておきます。
- カンフー・パンダ3(製作はドリームワークス。前作「2」まではパラマウント配給)
- ザ・シンプソンズ(テレビアニメ)
- 『エイリアン』シリーズ
- 『プレデター』シリーズ
- 『スター・ウォーズ』シリーズ(7作目「フォースの覚醒」からはディズニー配給)
- ダイ・ハード
- ホーム・アローン
- アバター
- インデペンデンス・デイ
- エクソシスト3(前作「2」まではワーナー・ブラザーズ配給)
- グレイテスト・ショーマン
- タイタニック
- 『X-MEN』シリーズ(マーベルと共同製作)
- デッドプール(マーベルなどと共同製作)
こんな感じでしょうか。もちろんこれ以外にもたくさんの作品がありますが、名作が多いですね。
それでは、ディズニーとコムキャストのそれぞれがフォックスを買収した場合に分けて、USJとTDRへの影響を考察していきます。
ディズニーがフォックスを買収した場合のTDRへの影響
まず、ディズニーがフォックスを買収した場合、東京ディズニーリゾート(TDR)に考えられる影響についてです。
東京ディズニーリゾートは全体としてファンタジー色が強く、20世紀フォックスの多くの映画の世界観とは少し違うような気がします。
「20世紀フォックス製作・配給の主な作品」で挙げた中で、今TDRにあるもので言えば「スター・ウォーズ」くらいですね。(スター・ウォーズも今やほぼディズニー。)
現在のTDRの世界観(実写よりアニメ映画が圧倒的に多い)や、これからパーク拡張で取り入れられるコンテンツ/キャラクターから考えて、ディズニーがフォックスを買収したとしても、フォックス系のコンテンツがTDRにアトラクションなどとして導入される可能性は低そうです。
ディズニーはマーベルを所有しているとは言え、現在のTDRに「アベンジャーズ」や「デッドプール」は似合わないですよね。
したがって、ディズニーがフォックスを買収した場合でも、しばらくの間TDRにおいてはほとんど変わりがないと言えるでしょう。
しかし、米カリフォルニアのディズニーランド・リゾートやディズニーランド・パリ、香港ディズニーランドでは、マーベルの映画をテーマにしたアトラクションやショーが導入される予定になっています。
実際、ディズニーランド・リゾートのディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パークでは、昨年5月にマーベル系のアトラクション「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー:ミッション・ブレイクアウト!」がオープンしています。
それに対し、日本のTDLでは『美女と野獣』のエリアや『ベイマックス』のアトラクションなどが2020年に、またTDSでは『アナと雪の女王』、『塔の上のラプンツェル』、『ピーターパン』の新エリアが2022年に誕生予定。
この開発予定からはマーベルの気配が全く感じられないので、やはりTDRがフォックス買収の影響を受けることは考えにくいです。(そもそもフォックスが買収できなくてもマーベルのコンテンツは導入できますし。)
あるとしても、2022年以降になることは間違いありません。
コムキャストがフォックスを買収した場合のUSJへの影響
次にコムキャストがフォックスを買収した場合、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に考えられる影響についてです。
先に「20世紀フォックス製作・配給の映画」で挙げた作品をご覧になって気づいた方もいらっしゃると思いますが、過去にUSJの『ハロウィーン・ホラー・ナイト』において、20世紀フォックスのコンテンツが登場しています。
『エイリアン vs. プレデター』と『エクソシスト』ですね。
また、米カリフォルニアにあるユニバーサル・スタジオ・ハリウッド(USH)には「ザ・シンプソンズ」のアトラクション「The Simpsons Ride」がある他、2018年6月15日には『カンフー・パンダ』のシアター型アトラクション「DreamWorks Theatre Featuring Kung Fu Panda」がオープンしています。(←これが最新技術を使用していて、どうやらすごいらしい…)
さらに、『シュレック』や『マダガスカル』シリーズでおなじみのアニメーション映画製作会社ドリームワークスは、2016年にコムキャストに買収されており、現在はユニバーサルのグループにあります。
しかし、配給の契約は20世紀フォックスと結んでおり、『ボス・ベイビー』など最近公開されたドリームワークス映画も20世紀フォックス配給となっています。
このような面では、コムキャスト(ユニバーサルグループ)と20世紀フォックスの接点は多いと言えます。
ユニバーサルのテーマパークは「映画スタジオの見学」が発祥なので、その点においても20世紀フォックスの多くの作品の世界観と一致するところはあるのかな、とも思います。
さて、これらがUSJにどれほど影響を与えるか、というのが当記事の本題です。
コムキャスト傘下に入り多少の制限はかかるようになっているかもしれませんが、USJの方針は「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」です。
そのため、取り入れられるコンテンツの幅が広がれば、今後アトラクションやショーとして登場するかもしれません。
筆者は少なくともTDRよりUSJの方が、影響を受けやすいと予想しています。
まとめ
今回は、ディズニーとコムキャストがフォックス買収合戦を繰り広げているのに際し、その結果がTDRやUSJに影響を及ぼすのかについてお伝えしてきました。
ディズニーやコムキャストからすれば、テーマパークは多くの事業の中の一事業であり、それほど大きなウエイトを占めるものではないかもしれません。
総合的に考えた結論としては、日本のテーマパーク(TDRとUSJ)においては、しばらくの間はほとんど影響が及ばない、今とほぼ変わらない、と予想します。
ここまで色々書いてきましたが、アメリカの企業のお話ですし、私たちが考えることはあまりないのかな、と思います(笑)
ディズニーはマーベル、ユニバーサルはドリームワークスに20世紀フォックスとの深い接点があり、映画/テーマパークファンとしてはここがどうなるか、注目したいですね!
最後までご覧いただきありがとうございました。
それではまた!
【参考文献・Webページ】
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